《 2023年6月18日-19日 》
ふだんはアポイントメント制のFRAGILE BOOKSのアトリエを開放し、新潟在住の美術家、コイズミアヤさんを迎えてオープンデイを開催しました。2023年6月18日と19日の二日間、中庭には泰山木の大きな白い花が咲き乱れ、梅雨とは思えない心地よい陽の光とそよ風に恵まれ、各回満員御礼となりました。
駆けつけてくださった方は、映画監督の大川景子さん、脚本家の太田香織さん、カリグラファーの星幸恵さん、陶芸家の森田春奈さん、豆本作家の赤井都さん、室内楽奏者の田崎瑞博さんをはじめ、ブックデザイナー、油絵画家、美術家、日本文化のプロデューサー、インテリアスタイリストなど、職業も年齢もさまざま。初対面のご相席にも関わらず、気さくなコイズミさんの話術に誘われるまま、旧知の間柄のように笑いの絶えない濃厚な時間となりました。
コイズミさんの作品は、どれもフラジャイル。一般の展覧会ではちょっとでも触れることが許されないものばかりですが、壊れやすいものをこそ、じかに手で触れてもらいたいのがFRAGILE BOOKSの信条。というわけで、皆さんといっしょにヒヤヒヤしながらほんものを体験しました。
ばらばらに切り刻んだ一篇の物語を編み物のように貼り合わせた「文鳥/夏目漱石」は、丸みを帯びた器形の作品で、触れると生きもののようにフルフルと揺れてしばらく止まらない。そんなことも、触れてはじめて分かることでした。参加した皆さんが待ちのぞんでいた「重なる箱」を解いたり組んだりするプロセスは、なにかの儀式を見届けているような緊張感と高揚感。「本をひらくときの、本と人の関係のように、箱をひらくことで親密な関係が生まれるような作品をつくりたかった」のだとか。タマネギのように、剥いていくと最後には何もなくなってしまう。
今回のオープンデイで初披露することになった「物語の量と在処」シリーズの最新作「ルバイヤート」(オマル・ハイヤーム/小川亮作訳/岩波文庫)は、FRAGILE BOOKSの櫛田が選書し、コイズミさんが作品に仕立てたもの。これまでは、どちらかというと文字だけがぎっしりと詰まった、リテラルな文芸書(の文庫本)を素材としてきたコイズミさんでしたが、櫛田が手渡した「ルバイヤート=四行詩集」は、余白だらけ、文字が少なく、白地が目立つものでした。それが新しい発見と収穫になったらしく、コイズミさんの言葉を引用します:
わたしは、ビジュアルアートの世界に長く居て、「ことば」で伝えられることの少なさを幾度も感じてきました。作品のことを言語化するときも、ことばで表現できることには限界があり、作品に対する情報がいつも不足していると感じてきました。恐れずに言えば「ことば」の表現は「粗い」と思っていたんです。ところが、今回こうして文字の少ない本をお題としてもらって、ハッとしました。「文字の少なさは、世界の貧しさではない」と。少ない言葉が汲むことができる世界はなんて広くて深いのか、と正直驚きました。
FRAGILE BOOKSは、取り扱いに注意のいる作品を、直に触れることができるオープンデイを不定期で開催します。DMハガキ、オンライストア、Instagramでご案内しますので、ご興味のある方は、こちらからメンバー登録をお願いします。
Text by 乙部恵磨
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参加いただいた方の声を一部ご紹介します:
「コイズミさんの思考から言葉になる瞬間が行ったり来たりして、彼女の箱の出し入れをする所作と連動しているようで興味深かったです。泰山館の雰囲気も密やかで素敵でした。」
ーーー星幸恵さま(カリグラファー)
「実際に見てみて、良かったです。とっても。立体アートはやはり足を運んで見るべきだと思いました。しかもアーティスト本人と語り合える少人数制のサロンのような、でも誰でも先着で申し込めるという贅沢。箱は、動かすと軽い音がして、ほのかに木の香りがたちました。」
ーーー赤井都さま(豆本作家)
主催:FRAGILE BOOKS