ABC SYMBOLE
Bibliographic Details
- Title
- ABC SYMBOLE
- Artist
- Yasutomo Ota / 太田泰友
- Year
- 2014
- Size
- h100 × w100 × d30mm
- Weight
- 330g
- Language
- German / ドイツ語
- Printing
- 活版印刷(木活字、鉛活字)、リノリウム版画
- Materials
- 紙、ボール紙
- Edition
- 26
- Condition
- new
活字がうたう
紙上のアルファベット。
«ABC SYMBOLE» 2014
アルファベット文字が持つシンボル性をテーマにした作品です。
手のひらにしっくりと馴染む大きさとクロス布の質感、どこかやわらかさを帯びた表題のABCのかたちが、親しみを感じさせます。中を開くと、パタパタと子供のしかけ絵本のように軽やかな展開に、心躍ります。木活字のやわらかな印象と、版画の示す味わいのあるシンボルは、大人の絵本のような世界観をつくり出しています。
中身に記されているのは、 AからZまで全てのアルファベットにそれぞれ「シンボル性に合わせた版画」「シンボルとしての働き」「アルファベット文字」「そのアルファベットが表す単語」の4つの要素。
表紙を捲り、まず最初に見開きで左側のページに見えてくる「版画」を捉え、すぐ右側のページに「シンボルとしての働き」を見ます。次に、見開き中央に向かって折れているページをめくると、木活字で印刷された力強い「アルファベット」と「そのアルファベットが表す単語」が現れます。例えば「C」のページでは、最初の見開きで「版画」そして「温もりを感じるために」という文章が配置され、更に折れているページを開くと、アルファベットの「C」と「セ氏温度」という単語が現れます。それぞれのシンボルとしての働きを記述した短いテキストは、明確に定義づける辞書のような説明的な文章ではなく、「C」の例のように、人それぞれに異なる景色を連想できるような、含みを持たせた詩的な表現を用いています。この構造から、次の展開を推測しながら順にページを開く、という読む側の思考的たのしみを自然、且つ円滑に誘導することに成功した作品と言えます。
大きなアルファベットの活字は木活字、そのほかのテキストは鉛活字、版画はリノリウム版画を採用しています。
本作で重要な機能を担う製本方法は、胡蝶装(「胡蝶装/こちょうそう」、別名「粘葉装/でっちょうそう」 。本文用紙の字面を中に折って谷折りに重ね、用紙の折り目の部分で糊付けしたもの)1枚ずつ開くと蝶が羽を開いたようになる構造をベースに作家自身がアレンジたものです。ページをパタパタと開く度にどこか羽のような軽快さを感じるのは偶然ではなさそうです。
一冊の本の厚み、そしてその大きさというのは、本の外側を形づくる最も重要な要素です。本書はその構造故に生まれた必然的な厚みと、歴史の一端を担ってきた木活字の大きさ故に100mm × 100mmという文庫本よりもう一回り小さな本になりました。限りなく機能美という言葉に近づいた一冊といえるのではないでしょうか。