An Invocation: Five Hundred and Thirty Books from Southend Central Library

Bibliographic Details

Title
An Invocation: Five Hundred and Thirty Books from Southend Central Library
Artist
Mike Nelson / マイク・ネルソン
Editor
Andrew Hunt and Mike Nelson
Designer
Fraser Muggeridge studio
Director
Andrew Hunt
Images
Book Covers Scanned by Ruth Hazel, Charlotte Meldon, Menna Payne, Briann Robinson and Demi Spriggs
Publisher
Focal Point Gallery
Year
2013
Size
h220 x w150 x d70 mm
Weight
1360g
Pages
1056 pages
Language
English / 英語
Binding
Paperback (with PVC jacket) / ペーパーバック(PVCジャケット付)
Edition
Limited 1000 copies / 1000部限定
Condition
As New / 新品
ISBN
9783960989066

取り壊された図書館から
救出した530冊の
本の本。

この一冊はわたしのお気に入りの「本の本」で、5年前にベルリンの書店「Motto Berlin」で出会った。『An Invocation』という表題に「サウスエンド中央図書館の530冊」という副題がついている。この”Invocation”という単語はラテン語の動詞「invocare」に由来することばで、中世では儀式のはじめに唱える神への祈祷のことで、そのもっと前には精霊や悪魔を呼び出す呪文のことを指すマジカルワードだった。いまではそれが転じて「法の行使、ミサの祈り、コンピューターの起動」などさまざまな場面で使われている。だからこの一冊は「本を召喚するための本」という仕立てになっている。なぜこんな不思議な名前がついているのか、その背景をかんたんに案内したい。

この本の発端は、英国サウスエンド・オン・シーのローカルシンボルだったサウスエンド中央図書館が取り壊されたことにある。図書館の跡地には、現代アートのギャラリー「Focal Point Gallery(フォーカルポイント・ギャラリー)」を併設する新しい公共施設が建つことになった。そのこけら落としとして、2013年に英国人アーティストのマイク・ネルソンが制作したアーティスト・ブックがこの一冊である。

1000ページからなるこの本には、取り壊されたサウスエンド中央図書館(Southend Central Library)の除籍本の山からネルソン自身が救出した530冊の表紙と裏表紙が収められている。本の表紙のスキャン画像をそのまま綴じた一冊といってしまえばそれまでだが、マラルメが言うように「世界は一冊の本に至るために存在する」わけで、地域で唯一の図書館から本が一冊消えることは、未知の世界が一つ街から消滅することに等しかった。たぶん、ネルソンはそんな風に考えた。そこで、ネルソンが仕掛けたのは、失われてしまった本(世界)を呼び出すマジック、あるいはコンピューターでいう「起動コマンド」として、本のための本をつくることだった。

どんな本が収録されているかというと、ジュール・ヴェルヌの『月世界旅行』、オーソン・ウェルズの『審判』、アンドレイ・タルコフスキーの『タルコフスキー日記』などの文芸書もあるにはあるが、たとえば『第三版:メキシコの硬貨ガイドブック』といったマージナルな世界の本も数多く選ばれている。

選ばれた本は、見開きの左右にランダムに入ってくる。一応、左ページには裏表紙(表4)、右ページには表紙(表1)を配置するルールになっているようだけど、その組み合わせはランダムで、そこが面白い。たとえば、左ページに「スヌーピー」、右ページに「カダフィ大佐」という不思議な見開きページができあがっている。しかも、蔵書をスキャンするときに、原寸100%にこだわったようで、大きな本は途中から画像が切れている。これもなかなかできないことだけど、書誌情報の保管よりも「消えた本の消息」を保存したかったのだろう。幽かな香りだけを残すように。軽くて分厚いこの本をめくっていると、図書館の書架ではぜったに隣り合わない、ジャンルも刊行年も作者の国籍もバラバラの本が、祝祭のようにページを連ねていく。

ネルソンは、旧図書館から除籍された蔵書を使って、新設ギャラリーの壁の中に「隠れたインスタレーション」も制作した。壁の内側の隙間に閉じ込めてしまったので、除籍本の現物を見ることはできない。唯一見ることができる記録が、この一冊ということになっている。このインスタレーションについて説明するよう求められたネルソンは「本がインスタレーションである」と答えたそうだ。

付録冊子「Interview」には、マイク・ネルソンとFocal Point Gallery ディレクターであるアンドリュー・ハントのインタビューを掲載している。インスタレーションと出版のプロセスやサイドストーリーから、ネルソンの偏愛的な読書遍歴まで披露されている。どうやら、スタニスワフ・レムやJ・G・バラードを愛読してきたネルソンは、サイエンス・フィクションの想像力にずっと魅了されてきたらしい。いわく、未だ誰も見たことがないことをどうやって視覚化するか、その方法を模索してきたのだという。見えないけれど確かにそこにある、そんな「視覚のユートピア」こそが、この出版とインスタレーションでネルソンが実現したいことだった。

ネルソンは1967年に英国ラフバラー(Loughborough)に生まれ、現在はロンドンを拠点に活動している。第54回ヴェネチア・ビエンナーレ(2011年)に英国代表として参加したほか、マルメ・コンストハーレ(2012年)、テート・ブリテン(2010年)、ACCA(2006年)、ターナーコンテンポラリー(2005年)、カムデンアートセンター(1998年)などで展覧会を開催している。



Text by 櫛田 理



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