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Bibliographic Details

Title
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Author
Tomoko Yoneda / 米田知子
Editor
introduction: Mark Haworth-Booth, essay: Kotaro Iizawa
Publisher
Nazraeli Pr
Year
2004
Size
h360 x w280 x d10 mm
Weight
730g
Pages
32 pages
Language
English / 英語
Binding
Hardcover / ハードカバー

写真家の米田知子が
見えるもの越しに

見えない世界を見る方法。

写真家の米田知子(1965-)がもっとも早い時期から制作しているシリーズ「見えるものと見えないもののあいだ」から代表的な作品をまとめた写真集。徹底的に準備(リサーチ)をして、アスリートのように本番(撮影)をむかえるという彼女の写真を見ることは、「何を通して何を見るか」という彼女の「しくみ」に付き合うことを意味する。写真を見るのに「しくみ」が必要なのは、彼女が捉えたい対象が、そこにはもうないことに理由がある。彼女の写真は、見えないものを見るための装置で、写真という四角い結界のなかに面影が去来するように仕組まれている。まるで、蕪村の「凧(いかのぼり)きのふの空のありどころ」を写真を使ってやるようなものなのだ。そこにずっと感心してきた。

本書には、文豪や音楽家、建築家や科学者など20世紀を代表する9人の人物が登場する。登場するといっても、本人は出てこない。フロイト、ヘッセ、マーラー、ジェイムズ・ジョイス、サルトル、谷崎潤一郎、ル・コルビュジエ、ガンジー、トロツキーという9人の傑物がじっさいに愛用した「眼鏡」を通して、それぞれにゆかりある書物や手紙を覗き見る構図になっている。たとえば、マーラーの眼鏡越しに覗き込むのは、未完成の交響曲第10番の楽譜。フロイトの眼鏡越しに覗き込むのは、盟友ユングが書いた自身との決裂を匂わせるテキスト。谷崎潤一郎の眼鏡越しに見るのは、3番目の妻である松子夫人に宛てた手紙、というように。

それぞれの写真につけられたタイトルが、見えない関係を謎解きしてくれている。だからというわけではないが、米田知子の写真はギャラリーや美術館の白い壁よりも、書物のページで見るほうが居心地がよい。本をひらいてとじるまでのあいだの、そのまたあいだに何度も目を瞬きしながら「見えるものと見えないもののあいだ」を気ままに想像する。そんなことに耽っていられる書物のかたちが、よく似合っている。米田知子の写真は、写真の姿をした本なのではないか、とさえ思っている。本書は、その点でとても好きな一冊である。



Tomoko Yoneda / 米田知子

兵庫県生まれ。1991年、ロイヤル・カレッジオブアート(ロンドン) 修士課程を修了し、以来ロンドンを拠点に国内外の展覧会で活躍中。主な展覧会に「残響―打ち寄せる波」(シュウゴアーツ、東京、2022)、「Tomoko Yoneda」(マフレ財団、マドリッド、2021)、「アルベール・カミュとの対話」(シュウゴアーツ、東京、2019)、第12回上海ビエンナーレ(上海、2018-19)、「アルベール・カミュとの対話」(パリ日本文化会館、パリ、2018)、「ふぞろいなハーモニー」(広島市現代美術館、2015 / Kuandu Museum of Fine Arts、台北、2016)、光州ビエンナーレ(2014)、あいちトリエンナーレ(2013)、「暗なきところで逢えれば」(姫路市立美術館、2014)/ 東京都写真美術館(2013)、「キエフビエンナーレ」(2012)、「Japanese House」(シュウゴアーツ、東京、2011)、「終わりは始まり」(原美術館、東京、2008)、第52回ヴェネチア・ビエンナーレ(2007)、「震災から10年」(芦屋市立美術館博物館、2005)、「記憶と不確実さの彼方」(資生堂ギャラリー、東京、2003)など。



Text by 櫛田 理


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