Colour, Based on Nature

Bibliographic Details

Size
2

6大陸80カ所のユネスコ世界遺産が
80色のダイアグラムに変わる
抽象のしごと

かつて小林秀雄は、随筆『私の人生観』の中で「自然の骨組みだけを残し、自然から余計なものを引き去る、それが抽象のしごと」と書いた。

この本は、グレートバリアリーフなどの地球の風景を、「色」だけで表したアーティストブックである。著者はオランダのグラフィックデザイナー、イルマ・ボーム。自然を伝える手段として、色彩以外のすべての情報は引き算されている。

この本以前にも、イルマは絵画や国旗から「色」だけを抽出し、視覚表現の抽象化を試みている。2004年にこの本の姉妹編ともいえる「Colour, Based on Art (美術の中の色彩) 」を刊行したときは、「壁紙みたいだから返品したい」というクレームが届いたが、一部のクレーマーからの苦言をむしろ「面白い視点」だと受け取ったイルマは、Knoll Textilesに声をかけて、本当に住宅用の壁紙を作ってしまった、なんてこともあった。

当時の壁紙を現在も販売しているウェブサイトでは、抽象化されたカラーコードと一緒に元になった風景写真を並べて見ることができる。たしかに、なるほどこの絶景からこの色のグラデーションが生まれたのか、という納得感がある。が、それ以上のことではない。本書には、カラーコードになる前の風景写真は、一切登場しない。意図的に排除されている。イルマは小林秀雄が言うところの「抽象のしごと」に徹したのである。

ベタ面にたっぷりと刷り込まれた特注の色。単色のページから、ストライプ・カラーのページまで、すべてのページに2センチ間隔でミシン目が入っている。好きな部分を短冊状に切り取れる、というしかけだが、切り取ると切断面が毛羽立って、突如として有機的な手触りが表出する。ぜひ勇気を出して、ペリペリと切り取ってみてほしい。広大な草原から一輪の花を摘むような、好きな色を選ぶためのささやかなたのしみが待っている。

なお、この本に印刷されている「色」は、ユネスコの世界遺産リストに登録されている6大陸80カ所におよぶ自然遺産の写真群が元になっている。それぞれの世界遺産についての情報は、各ページのノドのあたりに印字されている。この本は、その土地とその土地を守る人たちに捧げられたオマージュにもなっているのだ。


発行当時のユネスコ文化担当事務局次長、フランチェスコ・バンダリンは序文にこんなメッセージを寄せている。

本書「Colour, Based on Nature (自然の中の色彩) 」は、オーストラリアのグレートバリアリーフからスイスのユングフラウまで、ユネスコ世界遺産に登録されている80カ所の自然遺産を題材に、色彩に関する興味深い分析と図解による探求を展開します。二つ折りのページはそれぞれ特別な色で印刷され、ミシン目で細長い短冊状に切り分けられることで、カラーサンプルブックのような趣きを醸し出しています。鈍いナイフやレターオープナーでページを開くと、自然遺産の抽象的な色彩図が現れ、自然界における色彩の美しさについて深く考えさせられます。

タイポグラフィの専門家で、イルマの旧友でもあるマティウ・ローメンは、イルマの最新刊「ブック・アクティビスト」の中で、本書の舞台裏をこう詳述している。

すでに廃刊となっている「Grafisch Nederland (オランダのグラフィック) 」は、何十年ものあいだオランダのグラフィック界でデザイナーの名刺代わりになっていた。年に一回発行するこのシリーズは、デザイン上の制約がなく、毎回一つのテーマが設定されていた。長年、色が主役の本を作りたいと思っていたIB (イルマ・ボーム) は、このシリーズの依頼で念願を果たすことになる。彼女はアートとグラフィック技術の関係をテーマに選んだ。アート作品をオフセット印刷する際、作品はスキャンされ、印刷機でシアン、マゼンタ、イエロー、スミ(黒) の4色(CMYK) に分解、合成される。そこでIBは、四世紀にわたる美術の歴史から選んだ80点のアート作品をバーコード(ダイアグラム)とフルページの色見本に変換した。それが2004年の「Colour (色彩) 」だ。バーコードはCMYKで、ベタ面は特製のPMSカラー (パントーン・マッチング・システム・カラー) で印刷した。こうしたバーコード化ないしダイアグラム化により、心躍る配色のコンポジションになった。

どのページにもミシン目が何本か入っていて、ミシン目に沿って切り取ると、ガタガタとした見事なエッジができあがる。「これは脱構築されるための本なんです」と彼女は言う。しかし、この本を受け取っても、どうしていいのか皆目見当もつかない人が続出し、中には返品した人までいた。壁紙みたいだと言ったうるさ方もいた。IBはすぐにこの反対意見を前向きに採用し、最高級の壁紙を開発したのだった。アメリカのノル・テキスタイルズと組み、内装用の「Stripes Collection (ストライプ・コレクション) 」を発売した。こうして生まれた「アート・バーコード」はDVDにもなり、BGMはイギリスの作曲家マイケル・ナイマンが彼女のために作った。

ほどなくして「Colour」の姉妹本を作る企画が持ち上がり、2012年に「Colour, Based on Nature (自然の中の色彩) 」が出版された。

 

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