Frucht Ⅰ
Bibliographic Details
- Title
- Frucht Ⅰ
- Artist
- Yasutomo Ota / 太田泰友
- Year
- 2017
- Size
- h120 × w120 × d130mm
- Weight
- 1.35kg
- Language
- German / ドイツ語
- Printing
- ハンドオフセット印刷
- Materials
- 麻糸、紙、厚紙
- Edition
- 23
- Condition
- new
まるごとレモン1個分。
«Frucht Ⅰ»
2017
見るだけでビタミンCを摂取した気分になるような、レモン色のキューブには、レモンが丸ごと入っています。三方の小口に現れるレモンの輪郭は、作家自ら購入し2mmずつにスライスしたその個体そのものの輪郭が映し出されたもの。近づいてみると、その輪郭を浮き上がらせているのは、わずか2mmの幅に書き出されたドイツ語の文字。そこには個体の情報、レモンの概要、そしてレモンを使用したレシピが、一面ごとに記されています。ページを開くと紙の厚み2mmと同じ厚みにスライスされたレモンの断面図が現れ、ページを進めるごとに直径をわずかに変えながら展開していきます。
黄色の表層は、実は白い紙に黄色の印刷を施しています。テクスチャを含め、あくまでもレモンらしさにこだわったアプローチ。経年変化で、小口側の縁の黄色が剥げ、一部だけ白っぽく色褪せるのも、少し皮の削げたレモンの様です。
«Frucht Ⅰ»は、本以外のものを本の中に移し替えるという行為的直感性と、薄い層状のものの積み重なりが、本というオブジェクトを想像させるという視覚的効果の二面性を結実させた作品となっています。
Fruchtシリーズについて、作家はこのように説明しています:
「ひとつのオブジェクトを薄い層状に切ると、たくさんのスライスができあがる。そのスライスをまた積み重ねると元のオブジェクトの形が立ち現れる。スライスとオブジェクトの関係が、私には折丁と本の関係に見える。また、一つのオブジェクトの詳細を観察する方法であるCTは、物体の断面を見ることによってその目的を達成している。私は、オブジェクトの詳細を観察するために、折丁一枚と同じ厚さにスライスしてみた」
「2mmというのは、私が本づくりにおいて頻繁に使う単位だ。ぺらぺらとした紙を使う時、もっと言うと、紙に印刷をするとき、平面で捉えることが多いが、実際には紙は"厚み"を持っている。このプロジェクトでは、通常複数枚の紙が重ねられ折られてできている折丁を、ボール紙から作った一枚で構成することによって"厚み"が強く意識させられる。私は2mmという厚みの中に宇宙の広がりを感じる。フルーツのスライスの2mmの中にもたくさんの興味深いことが起きているし、本を作る過程においても、2mmの中に本当にたくさんのドラマがある。2mmともっと付き合いたくて、2mmの可能性をもっと知りたくて、このプロジェクトでは一枚の折丁の厚みの中に文字としての情報を入れた」と作者は語っています。
本作はドイツ時代に制作した最後の作品で、2017年に日本に拠点を移し、新たな創作へ向かうことになりましたが、本作を通じて「対象物に近づく」、「身近なものを本にする」、「本を身近なものに寄生させる」という意識がより高まり、これらの思考は現在に至るまで創作の大きなテーマとなっています。
Text by 乙部恵磨