Frucht Ⅲ
Bibliographic Details
- Title
- Frucht Ⅲ
- Artist
- Yasutomo Ota / 太田泰友
- Year
- 2017
- Size
- h120 × w120 × d88mm
- Weight
- 0.88kg
- Language
- German / ドイツ語
- Printing
- ハンドオフセット印刷
- Materials
- 麻糸、紙、厚紙
- Edition
- 23
- Condition
- new
まるごとトマト1個分。
« Frucht Ⅲ »
2017
トマト色のキューブには、トマトが丸ごと入っています。三方の小口に現れるトマトの輪郭は、作家自ら購入し2mmずつにスライスした個体そのものの輪郭が映し出されたもの。近づいてみると、その輪郭を浮き上がらせているのは、わずか2mmの幅に書き出されたドイツ語の文字。そこには個体の情報、トマトの概要、そしてトマトを使用したレシピが1面ごとに記されています。ページを開くと紙の厚み2mmと同じ厚みにスライスされたトマトの断面が現れ、ページをめくるごとに直径をわずかに変えながら展開していきます。
一見、赤単色の表層は、実はパール地で光沢のある白い紙に赤色の印刷を施しています。テクスチャを含め、あくまでもトマトらしさにこだわったアプローチです。
«Frucht Ⅲ»は、本以外のものを本の中に移し替えるという行為的直感性と、薄い層状のものの積み重なりが、本というオブジェクトを想像させるという視覚的効果の二面性を結実させた作品です。
Fruchtシリーズについて、作家はこのように説明しています:
「ひとつのオブジェクトを薄い層状に切ると、たくさんのスライスができあがる。そのスライスをまた積み重ねると元のオブジェクトの形が立ち現れる。スライスとオブジェクトの関係が、私には折丁と本の関係に見える。また、一つのオブジェクトの詳細を観察する方法であるCTは、物体の断面を見ることによってその目的を達成している。私は、オブジェクトの詳細を観察するために、折丁一枚と同じ厚さにスライスしてみた」というその言葉通り、作家は驚くべき偉業を成し遂げています。その表現方法もさることながら、実物のトマトを2mm厚に均等に端から端までスライスするのは、至難の技です。我こそは、と思った方は是非挑戦してみていただきたい。
「2mmというのは、私が本づくりにおいて頻繁に使う単位だ。ぺらぺらとした紙を使う時、もっと言うと、紙に印刷をするとき、平面で捉えることが多いが、実際には紙は「厚さ」を持っている。このプロジェクトでは、通常複数枚の紙が重ねられ折られてできている折丁を、ボール紙から作った一枚で構成することによって"厚み"が強く意識させられる。私は2mmという厚みの中に宇宙の広がりを感じる。フルーツのスライスの2mmの中にもたくさんの興味深いことが起きているし、本を作る過程においても、2mmの中に本当にたくさんのドラマがある。2mmともっと付き合いたくて、2mmの可能性をもっと知りたくて、このプロジェクトでは一枚の折丁の厚みの中に文字としての情報を入れた」と作家は語っています。
本作はドイツ時代に制作した最後の作品で、2017年に日本に拠点を移し、新たな創作へ向かうことになりましたが、本作を通じて「対象物に近づく」、「身近なものを本にする」、「本を身近なものに寄生させる」という意識がより高まり、これらの思考は現在に至るまで創作に欠かせない大きなテーマとなっています。