ホモ・ファーベル / フィリップ・ワイズベッカー

Bibliographic Details

Title
Homo faber / ホモ ファーベル
Author
Philippe Weisbecker / フィリップ・ワイズベッカー
Editor
Osamu Kushida / 櫛田 理
Director
Osamu Kushida / 櫛田 理
Publisher
TOSHO PRINTING CO., LTD. / 図書印刷株式会社
Year
2022
Size
w148 × h210 × d10mm
Weight
300 g
Pages
96 page
Language
Japanese / English 日本語 / 英語
Binding
Hardcover / ハードカバー
Edition
Limited Edition of 2500 copies / 限定2500部
Condition
As New / 新品
ISBN
978-4-910462-03-5

Photography by Toshiaki Miyamoto 宮本敏明 / Translation & Coordination by Natsuko Kida 貴田奈津子 / Layout Design by Ryosuke Saiki 佐伯亮介 / Book Design by Yoshihisa Tanaka 田中義久 / Cover Textile Design by Reiko Sudo 須藤玲子 / Special Thanks to Kaoru Kasai 葛西 薫 / Sales Cooperation by 無印良品 MUJI BOOKS / Printing and Binding by TOSHO PRINTING CO., LTD. 図書印刷株式会社

暮しが仕事、仕事が暮し。
フィリップ・ワイズベッカーの
生活美学。

本書は、パリを拠点に活動するフィリップ・ワイズベッカーの1日に密着した記録。身の回りの日用品やオブジェを描くアーティストとして知られ、その独特の表現は日本でも人気が高い。最近では2019年にリニューアルした伊勢丹の包装紙や2020東京オリンピックの公式ポスターにも採用された。近年であ、2020年には竹中工務店のギャラリー「エークワッド」で「フィリップ・ワイズベッカーが見た日本 ― 大工道具、たてもの、日常品」が開催されたことも記憶に新しい。

そんなフィリップ・ワイズベッカーの創作の源泉をたずねて、パリの自宅やアトリエを取材した本書には、蚤の市や旅先で拾いあつめてきたオブジェや古道具、作品のための画材や工具、手控えのスケッチブックなどが登場する。それらが息を潜めて収納されている「グレーの家具」こそ、本書の裏テーマでもある。当方が、企画と編集を担当した。


本編の構成は、7つの章+巻末のショートエッセイ。

 06:00 - 07:00 起床
 07:00 - 07:30 アトリエへ
 07:30 - 08:30 朝食
 08:30 - 10:30 日々の雑務
 10:30 - 13:00 制作
 13:00 - 14:00 昼食
 14:00 - 19:00 制作
 あとがき「日常を組み立てる」


セーヌ川を見下ろす自宅には奥様がいて、毎朝だいたい6時に起床する。徒歩30分ほどの距離にアトリエがあり、そこで仕事をして、夜7時には自宅に帰ってくる。そんな規則正しい日々を過ごしている。朝食や昼食はじぶんで支度をする。自宅とアトリエは、スツールや収納棚、テーブルや壁掛け家具など、ご覧のとおり、自ら作ったシンプルなグレーの家具で囲まれている。「グレーに塗るのは、塗りの欠点が目立ちにくいから」と謙遜しているけれど、見ているだけで気持ちが休まるし、なにより「地」と「図」の関係でいえば、作品も食事も蒐めてきた古道具たちも区別なく、グレーの背景に浮かび上がらせれば、日常は作品になり、作品は日常になる。河井寛次郎が文字通りに生きた「暮しが仕事 仕事が暮し」のスピリットが、遠くパリの地で息づいている。

自作のスツールは座り心地がわるい。友人たちにもそう批判されてきたけれど、それでも、じぶんらしくて気になっている、のだそう。帯文を執筆した葛西薫さんを交えたオンライン対談では「家具が簡素であることで、静けさ、静寂に向かうことができる」と、語っていた。そうなのだろう、と得心した。対談の詳細はこちらへ

本書は、パリ在住(当時)の宮本敏明さんが撮影した写真で構成されている。収録できた写真はほんのわずかで、削ることにたいへん苦労した。本人の語りをおこした言葉も、秀逸(翻訳を担当したのは、マネジメントも手がける貴田奈津子さん)。とくに気に入っているのは、10時30分からの「制作」の章に寄せたことば。少し長いけれど、ここに引用する。

ひとりでにやってくることもあれば、
求めてもなかなか来てくれない時もある。
誘い出すのに手段は問わない。
よい紙を見つけ、よい定規を使い、
よい鉛筆を選んでも何も起こらない時は、
最後の手を使う。
アトリエに棲みついている、
蓄積されたインスピレーションの源に
鼻を突っ込んでみるのだ。
(同書 p.51)

本書のハード面では、テキスタイルデザイナーの須藤玲子さんの監修で、ゆらぎのある網目模様の布張り装丁が実現した。日本の蚊帳でつかわれる「紗の布」を黒い薄紙で裏打ちした。造本設計は、数々のアートブックを手がけてきた田中義久。印刷製本は、出版レーベルBONBOOKを発行する図書印刷株式会社。本書はBONBOOKとして8冊目の刊行にあたり、これまでに漫画家の高野文子さん、詩人の平出隆さん、FRAGILE BOOKSのロゴもデザインした服部一成さんなど、ジャンルを超えてさまざまな著者を迎えている。

また、本書がきっかけとなって、フィリップ・ワイズベッカーの「自作の家具」をあつめた「HANDMADE ハンドメイド」展が2022年春に開催された。会場となった無印良品銀座6階 ATELIER MUJI GINZA はおおいに賑わいました。

ちなみに、本書のタイトルになっている「ホモ・ファーベル(Homo faber)」とは、道具を作りそれを使う創造的活動のこと。それこそが他の動物と区別できる人間的活動の本質ではないか、と唱えたフランスの哲学者アンリ・ベルグソンの造語を採用した。自作の家具に囲まれて過ごし、生活と創作が分かち難く結びついているフィリップ・ワイズベッカーの日常は、創造的人間とはかくあるべしと静かに実証している。


Text by 櫛田 理



Photo by Toshiaki Miyamoto


フィリップ・ワイズベッカー
Philippe Weisbecker / 1942年、フランス生まれ。パリのフランス国立高等装飾美術学校を卒業し、1968年にニューヨーク移住。アメリカの広告やエディトリアルのイラストレーションを数多く手がけながら、アートワークも制作。2006年、フランスに帰国。日本との縁は深く、2000年にクリエイションギャラリー G8で初個展。2002年、アンスティチュ・フランセ日本が運営するアーティスト・イン・レジデンスで京都のヴィラ九条山に4カ月間滞在。2021年には公益財団法人 竹中大工道具館で個展を開催。東京オリンピック2020の公式アートポスターも手がけた。現在はパリを拠点に活動し、欧米や日本で作品の発表を続けている。


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