Khora (VARIATION-46)
Bibliographic Details
- Title
- Khora (VARIATION-46)
- Artist
- Tatsuhiro Suizu / 水津達大
- Year
- 2025
- Size
- H263 × W188mm (without frame)
- Weight
- 170g (without frame), 530g (with frame) * Weight may vary slightly depending on the panel, but the listed weight reflects the heaviest work. パネルの個体差により多少重さは異なります。表示は重いものを基準にしております。
- Materials
- Aluminum powder, Ink, Japanese paper / アルミニウム、墨、和紙
- Edition
- Unique
After purchase, a sheet signed by Tatsuhiro Suizu will be affixed to the back of the artwork./ ご購入後、水津達大さんのサイン入りの紙を作品裏面に貼付いたします。
Khora (VARIATION-46)
Khora のシリーズでは、筆先をわずかに紙に触れさせる、さわりと呼ぶ微細きわまりない逆向きの動きがまずあるのだという。逆行からはじまり、筆先は置かれ、そこから引かれ、やがて平面から引き上げられる。そんな筆の短い動きがくり返されている。
平出隆
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日本画の画壇を離れ、独自の世界をひらきつつある水津達大の連作絵画展を開催します。FRAGILE BOOKSの新刊『VARIATION』に収めた80点の連作絵画「Khora(コーラ)」のオリジナル原画を一望できます。詩人の平出隆が「純粋に描く行為だけで絵を描こうとしはじめた画家にとって、またそれを観る者にとって、描くとはみずからを置き、引きまわし、やがて引き上げるという行為である」と評したように、それは風景を描かずに風景に至るという画家の新境地で、描くという行為の痕跡だけが燦いています。すべての作品は、特別に誂えたアルミニウムのフレームに収めてお届けします。
ーーーこの連作絵画のはじまりには何がありました?
はじめに、風景がありました。文化や歴史を内包するモチーフとして、風景を描くことは魅力的な題材でした。それがしだいに重力に起因する画面構成に不自由さを感じるようになってきたんです。
ーーー重力からの解放、ですか。
どうしたらそれができるのか。じぶんなりの方法を探して試行錯誤しました。それで、写実的な実景描写から心象風景へ、さらに開かれた作品をもとめるようになりました。
ーーーひびもにじみも風景である、のような?
はい。もともと日本人は茶碗の肌とか墨の滲みのなかに景色を見い出してきました。そういう人為を超えた偶然性の裡にこそ、名状しがたい美を感受してきたはずです。そうであれば、風景を描かなくても風景に至るはずではないか。そう考えるようになりました。
ーーー画家である自分の首をしめかねない発見ですが、よくぞそこで筆を置かずに「Khora(コーラ」を立ち上げましたね。
絵を描くことの本質は、その「対象」ではなく「描き方」にこそあらわれる。またそうだとしたら、描くという行為だけが残ればよい。そのことに気づいたんです。
ーーーそうなるとその風景には特定の「場所」もいらない。
もう具体的な場所に起因する空間を描く必要はなくなりました。私はこの流れをTopos (トポス=具体的な風景)からKhora (コーラ=行為によって生成される場)への変化として捉えています。
ーーー連作絵画のタイトルにもなっている「Khora」は、プラトンが宇宙開闢論『ティマイオス』で使用した言葉で、すべての誕生の母のような場のことですね。
古代ギリシャ語に由来する言葉で、主客未分の状態のことでもあります。つまり、わたしとわたし以外のあいだに分断が無く、主客が融け合った状態のことです。
ーーー音楽をぼおーっと聴いている時みたいな?
そうですね(笑) 日本では西田幾多郎の場所の論理があったり、東洋思想とも本質的な共通項があります。そこに取り組むべき絵画空間があると直観しました。画材は、近代化によって大量生産が可能になったアルミニウムと東洋の伝統的素材である墨だけ。それを中国の筆法によって繰り返し重ねています。
ーーー意図しない墨筆の跡が、画面の隅々まで埋め尽くしています。
見るときの角度や明暗によっても景色は千変万化します。対峙する心のありどころによっても無数のバリエーションが生じます。そうした不連続なバリエーションによって、洋の東西、文化と文明、個別性と全体性といった二項が溶け合っているのです。
ーーーこの本にしても、幾度の変更を経て、不連続なバリエーションが生まれました。
初作品集がこのような形になって、よかったです。まさに、風景のような本になりました。
話し手:水津達大
聞き手:櫛田 理
<詳細> |
水津達大 Tatsuhiro Suizu
1987年広島県生まれ。2013年東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻修士課程日本画修了。「国宝 伴大納言絵巻」模写事業に参加(2013)。大峯奥駈修行満行(2016、2018)。主な個展に「蹤跡」(圓徳院、2025)、「曾遊」(日本橋三越本店、2022)。