little boy
Bibliographic Details
- Title
- little boy
- Artist
- 河口龍夫 / Tatsuo Kawaguchi
- Director
- 横田茂 / Shigeru Yokota
- Images
- 19点の未発表ドローイング
- Publisher
- Tokyo Publishing House
- Year
- 2018
- Size
- h272 × w420 mm
- Weight
- 500 g
- Pages
- 44 pages(ノンブル無し)
- Language
- 英語 / English
- Edition
- 7部+AP.3部 / Limited edition of 7 copies + AP.3 copies
- Condition
- As New
本書の造本を手がけたのは製本家の大平立子 / Binding by Ritsuko Ohira
1945年8月6日午前8時15分に
広島を破壊したリトルボーイ。
これを封印する。
作者の河口龍夫は、1960年代から現在まで一貫して«関係»というコンセプトを掲げ、「見えること」と「見えないこと」の関係や「実存」を巡る数々の作品を制作してきた現代美術家です。見えなくてもそこに流れている時間に着目し、特に1980年代以降は、種子を鉛で覆ったり、蓮を蜜蝋で包むなどの「封印する」作品で知られています。
本書は、広島に落とされた原子爆弾、通称「リトルボーイ」をテーマに描かれた河口龍夫のアーティストブックです。発行元は、1983年の初個展から継続的に新作を発表している横田茂ギャラリー / Tokyo Publishing Houseが刊行。限定7部のうちの一冊です。
本書が生まれるきっかけとなった作品は、戦後50年の節目となる1995年に「ヒロシマ」をテーマに制作した《関係-鉛の温室 HIROSHIMAのたんぽぽ》です。「ヒロシマ」と向き合いながら描いた61点の作品から、未発表ドローイングを含む19点をセレクトし、原寸大で製本したのがこのアーティストブックです。造本を手がけたのは、製本家の大平立子。リベットで2ヵ所を留めただけの製本は、リトルボーイの冷たい鉄の躯体を留める鋲のよう。表紙のぼこぼことした厚手の用紙も、錆びた鉄のような色合い。簡素でありながら、河口龍夫のコンセプトを純度高く仕立てています。
表紙をめくった後の最初の3ページは、河口自身による書き下ろしの文「little boy-to bring back the original meaning of the word」、爆心地の緯度経度、8時15分で静止した時計の針、が続きます。その以降のページには、リトルボーイを封印するさまざまな絵図が淡々と続く構成です。
1945年8月6日午前8時15分、広島に落とされたリトルボーイは数万人の命を奪い、街を一瞬にして焼き尽くしました。人類史上初の原子爆弾の開発にかかった時間はわずか数年でした。また最初の実験から実際に戦争で使用されるまでにはわずか数週間しかかからなかった、といいます。77年後のいまもなお、戦争はなくならず、人類はこの問題と対峙し続けています。
本書は、河口龍夫の意図を明確にはしていません。いつまた使用されるかもしれない核兵器がまるで無いものかのように隠匿されている見せかけの世界平和へのアンチテーゼが無言で描かれている、とも読めるし、世の初めから隠されている暴力という根源に対する、諦念にちかい黙字録にも取れる。読み手によってさまざまな感情が起こる一冊です。
Text by 櫛田 理
<参考図像>