Nederlandse postzegels 1987+88
Bibliographic Details
- Title
- Nederlandse postzegels 1987+88
- Author
- ポール・ヘフティング / Paul Hefting
- Designer
- Irma Boom / イルマ・ボーム
- Publisher
- Staatsbedrijf der PTT
- Year
- 1988
- Size
- 251 x 191 x 16 mm, h251 x 191 x 10 mm,
- Weight
- 560g, 370g
- Pages
- 116p + 112p
- Language
- オランダ語 / Dutch
- Binding
- 袋綴じ(小口袋とじ製本)
- Printing
- 表は4色、裏は1色 / 4-color recto and black versos
- Condition
- 表紙少傷み、本文は良好
- ISBN
- 978-9012059039
ニューヨーク近代美術館収蔵。表紙の箔押しホットスタンプは、経年の擦れで箔が落ちていますが、87と88の数字の組み合わせで、同じように見えて、たとえば87年の巻は「87」が凸で、「88」は凹むように、エンボス加工しています。
天才イルマ・ボームの
書物史上まれにみる
うつくしい失敗作。
イルマがオランダ国立印刷出版部門(Staatsdrukkerij en)に勤めていた会社員時代に手がけた本です。お相手は、オランダ国営郵便会社(PTT)で、Karel Martensなどダッチデザインのパイオニアたちが1920年から毎年のように担ってきた、歴史ある切手年鑑のしごとでした。まだ無名だったイルマが、1987年と1988年の2冊の年鑑を、手がけることになったのです。
イルマのデザイン方針は、その年に発行したデザイン切手やその年に使われた消印スタンプをもれなく収録しながら、切手図案やモチーフと関係づけられる別のイメージも連想的に並べることで、切手デザインをたくさんのイメージの上に、浮上させる試みでした。
切手デザインを多重多層に浮上させるしかけは、印刷と製本の方法に如実にあらわれています。なんといっても袋綴じの製本に、最大の特徴があります。カットされることを前提としないので、アンカットや仮綴じの製本とは違います。はじめて手にしたときは、このしかけに心底おどろきました。光に透かすと内側に印刷されたイメージが、ウォーターマークのごとく、浮かび上がってくるんです。イメージのおばけみたいに。
イルマは、開けて見ることのない袋綴じの内側に、表とはちがうイメージを印刷しました。表に見えているページは、オフセットリソグラフィ4色で、袋の内側はスミ1色。で、カラーページを透かすと、過去の亡霊が浮かび上がるかのような効果を発揮するわけです。当時は、日本でいえば昭和のバブル崩壊前。コンピューターでデザインするよりも前の時代なので、あつめてきた膨大なイメージの素材を、ハサミで切って貼って、ゼロックスプリンターを駆使したそうです。
こうして出来上がった2冊の年鑑は、”Brilliant Failure (素晴らしい失敗作)”と酷評され、切手コレクターからは返本と苦情が山のように返ってきたそうです。たしかに、切手を見やすく並べたカタログを求めていた人には、期待はずれだったかもしれません。これは、カタログというより、紙上の展覧会のようなものですから。しかし、イルマボームの最初の商業出版が失敗作だったとは、おもしろいことです。
とにもかくにも、この本が、世界でもっとも有名なブックデザイナーになる前の若干27才のイルマ・ボームが最初に出版したブックデザインで、受賞歴のある最初のブックデザインです。その後、イルマ・ボームが数々の名作ブックデザインを世に送り出し、「Queen of Books」と称賛されるようになった現在も、この香ばしい”失敗作”は燦然と輝いています。
最後に、ブックデザインと向き合うイルマ・ボームの姿勢がよくわかるインタビューを抜粋して終わります。
「自分の仕事を建築と比較するとしたら、わたしは別荘を建てるのではなく、公営住宅を建てています。書物は工業的に作られるので、とても上手につくる必要があります。わたしはいわば工業的な生産のためにいます。だから、1冊だけの本というのは嫌いです。 1冊なら、何でもできてしまう。けれど、大量に印刷するには、つねに挑戦しなければならない。それはけっして芸術ではありません。決して、決して、決して。」
“I compare my work to architecture. I don’t build villas, I build social housing. The books are industrially made and they need to be made very well. I am all for industrial production. I hate one-offs. On one book you can do anything, but if you do a print run, that is a challenge. It’s never art. Never, never, never.”
Text by 櫛田理