小笠原流 熨斗折形標本

Bibliographic Details

Title
小笠原流 熨斗折形標本
Author
不明 / Anonymous
Publisher
不明 / Anonymous
Year
不明 / Unknown
Size
h260 mm × w190mm × d25mm
Weight
29g
Pages
22
Language
Japanese
Binding
和綴じ
Materials
Paper
Condition
Poor

折形標本は、
日本だけで
600年以上続く
贈答文化の結晶です。

ブックハンターの佐藤真砂さんから«小笠原流熨斗折方標本»が届きました。

和紙を使って綴じた手製の台帳に、「真」「行」「草」の3つの組で折形の完成品が117点ほど貼り込まれています。台帳とは別に、糊が弱って台紙から剥がれ落ちた折形単体も73点(真行草の捺印の無いものも含む)ほど付属しています。

割り印があるので、複雑な折りでも容易に復元できるようになっています。いずれも、本体に用途(「開店祝い」、「手拭い風呂敷包み」、「焼香料」など)が書かれているので、たいへん実用的です。剥がれ落した分は、折形を実践してみたい人にとっては、一折ずつひらいて確かめることができるという点では、むしろ不幸中の幸いといえます。

完成品はどれも美しい仕上がりで、折形を指導するような場で折られた、雛形見本ではないかと、推測していますが、裏表紙に書かれている持ち主の姓と思われる「神谷」という文字以外、たしかな手掛かりはありません。折形を教える立場の「神谷先生」がお手本として折り溜めたものか、或いは、折形を学んだ「神谷さん」が上手に折れた作品を標本として保存したもの、そのいずれかではないかと想像します。詳しい制作年代は不明ですが、台帳の印象や折形の多様さなどから考えて明治時代のものと見られます。

日本の折形の歴史は、包みの歴史でもあります。平安時代から鎌倉時代にかけて、中国から紙がもたらされ、のちに紙の生産量が増えると、人々の想いを詠んだ歌や文がしたためられ、雁皮紙に包んで贈り合うようになりました。『源氏物語』をはじめとした王朝文学や日記の中にも、その様子をうかがい知ることができます。いまからおよそ1000年前の贈答文化は、布で包むことが基本だったようですが、手紙や絵など、さまざまなものを贈り合うために、すでに折形の原型があらわれていたのです。

表紙に手書きされている「小笠原」は、武家・華族だった日本の氏族・小笠原氏のこと。清和源氏の河内源氏の流れをくみ、鎌倉、室町幕府の公式礼法の礎をつくり、武家の有職故実を伝える一族としても知られています。

折形が庶民のあいだで親しまれるようになったのは、江戸時代です。もともと将軍家以外にはその神髄を明かすことを禁じられた「一子相伝」の礼法でしたが、江戸時代になると、時の流れと共に、紙の生産・流通量が増えて安価で手に入るようになり、一般にも広がりました。ここで興味深い点は、小笠原流と言いながら、折形のかたちが一部、町人仕様に変化していったということです。口伝・秘伝とされてきた武家の流儀をそのまま伝えることを憚ってか原型から少し形を変えたり、武家の間ではやりとりされるはずのない品物用に新たにかたちを作り出すといったこともあったようです。そのため、江戸後期以降は折形の種類が千を超えていたという説もあります。多くの礼法の流派が生まれ、かたちの多様性が急増しはじめると同時に混乱も生じたようです。また、全国規模で農家が副業として和紙を漉くようになると、庶民の間にも和紙が普及し、これらの出来事がかさなって、特に折形の粉包みなどの造形のおもしろさから、紙を折って楽しむ「遊戯折形=おりがみ遊び」が急速に普及したのだといいます。

物心つく前から親しんでいるおりがみの原型が、折形に宿っています。折形は、一見すると複雑な構造に感じられますが、物理的な側面だけ見ればおりがみと同じです。1枚の紙を右に折り、左に折り、ときには天も折り、地も折りながら、ひとつのかたちをつくります。中国の剪紙(せんし)やメキシコのPapel picado(パペルピカド)など、1枚の紙からかたちを切り出す工芸美術は他の国でも散見されますが、1枚の紙を折ってかたちを立ち上げる折りの文化は、日本固有もののようで、ご存じのようにいまではOrigamiとして世界で周知されるようになりました。細心の注意を払い両手で白い紙を折る仕草、折形にこころを込めて贈りものを捧げる行為には、想像以上に日本の美意識が内包されているようです。

いかめしい武家の慣習から、庶民の楽しみへとひろがった「紙を折り・包む」という日本の文化、実はまだまだ奥が深そうです。



Text by 乙部恵磨


 
折形のアレコレを知りたい方におすすめの文献:

『包結記(包結図説)』 伊勢貞丈 1840年
江戸末期、折形が本来のあるべき姿を見失ってしまったかのような状況に憂いを覚えたのが伊勢貞丈(いせさだたけ)。この人物は伝承されてきた「正当な折形」のみを武家の故実と捉え、記録すべく1764年に『包結記(包結図説)』を執筆(出版年は貞丈没後の1840年)。展開図や手順といった実用的な内容も掲載した、包み方・紐の結び方に関する日本で最初の画期的な解説書として、広く知られている書物です。

『半紙で折る折形歳時記』  折形デザイン研究所、小沢実 2004年
日本伝統の贈りものの礼法、折形が古今の名句と出会ってできた、美しい歳時記です。見るだけでなく、実際に手を動かして作ってみたいと思わせてくれる本です。

『日本水引』 長浦ちえ 2022年
水引文化研究家、水引デザイナーである長浦ちえさんの著書『日本水引』(誠文堂新光社)が6月に刊行予定です。内容は水引の作法、結び方はもちろんのこと、贈答文化、これからの水引の行く末などを豊富な図版と参考文献を交えて紹介されています。

Blog : 折形<無免許皆伝> 荒木蓬萊堂  荒木隆弘
特に古典籍の中に見る贈答文化、折形研究において大変興味深い考察をされています。

Out of Stock