Pupal
Bibliographic Details
- Title
- Pupal
- Artist
- Yasutomo Ota / 太田泰友
- Year
- 2020
- Size
- h1200 × w850mm
- Weight
- 12kg
- Materials
- 木、紙、麻糸、牛革、花布、アクリル絵具
- Edition
- unique
- Condition
- new
本の蛹か、木の精か。
«Pupal»
2020
「本の虫」というと本好きな人のことを言いますが、ここでは蛹になった本についてご紹介しましょう。
木の枝に、なめらかな牛革で包まれた木の本が定着しています。白く細い麻糸が表紙の下を通って、小口側から数本伸びており、本を支えているような不思議な景色がそこに立ち現れます。まるで蝶の蛹が糸を張りその糸で自分を固定するのと同じように。虫の蛹の内部では、一部の神経、呼吸器系以外の組織はドロドロに溶解しているのだそうで、幼少期に虫好きだった作者は本を虫に置き換え、「本になる前の本」の姿を私たちの前に提示しているかのようにも見えます。
«Pupal»に使用されている主な材料は天然素材です。木、紙、牛革、麻糸など、これらはすべて呼吸しています。本に仕立てられた素材達は、血の通っていない無機質なものと捉えられがちですが、これらの素材はそれぞれに影響し合い、気候や環境によっても変化する存在です。本の蛹は、紛れもなく生きています。
本作は、高さ120cmもある大型作品でありながら、作者の持ち味である繊細な表現がより際立つ仕上がりです。最上部は切りっぱなしの枝の切り口を金色で丁寧に塗装し、本来は本を綴じた天と地の部分を補強・装飾する布である花布(はなぎれ)を、木の皮の上から貼り付けています。この花布を一部分に施すことで、木の枝の丸みが、上製本の丸背に感じられるのは、鑑賞する人にとってはトリックアートを見ているような不思議な体験です。
木の本は、木目に沿って目立たない程度の彫りが施されており、その凹凸の連続は、まるで厚い本の小口です。なめらかな肌色の革は、木の本よりわずかに大きく、木の本の骨格を残しながら、全体を絶妙に包み込んでいます。革の端を、直線的に処理するのではなく、ゆるやかな丸みを帯びたり、わざと不均一なヒダを残すことで、虫の蛹の形態を再現することを試みています。
子供の頃にカブトムシや蝉を捕まえたり、幼虫から成虫になるまで自宅で育てるなど、昆虫に親しんできた作者ならではの作品と言えます。