ラモーの甥 / ドニ・ディドロ

Bibliographic Details

Title
Rameau’s Nephew / ラモーの甥
Author
Denis Diderot / ドニ・ディドロ
Translator
Takuzo Obase / 小場瀬卓三
Publisher
Nihon Hyoron Sha / 日本評論社
Year
1949
Size
h147 × w105mm
Weight
180g
Pages
428 pages
Language
Japanese / 日本語
Binding
Softbank / ソフトカバー
Condition
good(Missing cover and obi / カバー・帯欠)
ISBN
9784003362433

ディドロの最高傑作。
フランス革命の足音が
聞こえてくる福耳。

訳者の小場瀬卓三が巻末に書いたあとがき「『ラモーの甥』研究」の終盤(P.406とP.407)に、ナナメにのびた福耳が見つかった。福耳を出したまま、表紙を綴じた姿もまた格別なので、もしお求めいただいた際には、ぜひ背の低い位置に横たわらせて見てほしい。

『百科全書』で知られるディドロだが、本書『ラモーの甥』こそ彼の最高傑作と位置づける専門家が少なくない。この本の生い立ちがまた憎らしいほどにドラマチックなのだ。生前には完成していたものの未発表だった原稿を、1805年になってゲーテがドイツ語に翻訳して刊行したことから日の目を浴びたのである。タイトルにある「ラモーの甥」は実在の人物。ラモーとは、バッハやヘンデルと並ぶ大作曲家、ジャン=フィリップ・ラモー / Jean-Philippe Rameau (1683-1764) のことで、その弟でオルガン奏者のクロード・ラモー / Claude Rameau (1690‐1761)の息子で音楽家のジャン・フランソア / Jean‐François(1716‐?) が甥にあたる。

本書は、奇妙な対話体小説として成立している。ラモーの甥は、旧体制に寄生しつつ旧体制を裏切る「彼」として描かれ、哲学者の「私」とどこまでも意見を異にする。「私」はディドロの分身であると考えるのが普通である。

あらすじはこうだ。18世紀のパリ、華やかなカフェの一角に奇妙な男「彼」が登場する。その男こそ「ラモーの甥」である。天才音楽家のジャン=フィリップ・ラモーを叔父に持つが、その才能も名声も「彼」には無い。なにが奇妙かというと、「彼」は物真似とお世辞、ときに恋のキューピッド役として貴族たちの周りをうろついては、美味しい食事をタダで手に入れて生き延びているからだ。ところが、ある日うっかり政治の話に首を突っ込んでしまい、あっさり貴族社会から放り出されてしまい、放浪することに。「彼」はとても極端な男で、食べ物が手に入らない時はガリガリに痩せ細り、食事にありつけると、ここぞとばかりに過食に走る。貴族の気まぐれに振り回されて、まるで体形がジェットコースターのように変わってしまう。そんな「彼」がある日カフェで哲学者の「私」と出会い、何時間にもわたる対話が始まった。最初は皮肉たっぷりに貴族を冷やかし、世の中の矛盾を笑い飛ばしていた「彼」だったが、次第に「世直しなんてどうでもいい。お金がすべて!」とだんだん彼の本性が見えてくる。改革や理想より、金儲けや生き延びる術に全力を注ぐ「彼」の姿は、どこか滑稽でどこかリアルなのだ。

旧体制のフランス社会を痛烈に批判したこの物語は、1762年に執筆されていた。フランス革命は、実にディドロの執筆から27年後、ディドロがこの世を去ったわずか5年後の1789年に勃発したのである。

この本の福耳は、鋭くもあるが、どこかおおらかさを併せ持っており存在感がある。福耳のすぐ側には、訳者である小場のこんな言葉が記されている「社会の一般的幸福そのもののために奉仕することの中に、個人的利害に奉仕するよりも大きな幸福、真の幸福が見出されるという観念が波打っている。それはまさに戸口をノックしている大革命の足音である」と。ディドロの波打つ観念が、福耳として出現したのかと想像した途端、福耳に異様な存在意義を感じてしまう。


«目次»
序(モンヴァル)
譯註
『ラモーの甥』
譯註
 甥ジャン=フィリップ・ラモーの生涯(トワナン)
譯註
『ラモーの甥』研究(譯者)
本文索引


ドゥニ・ディドロ / Denis Diderot(1713-1784)
フランスの哲学者、美術批評家、作家であり、18世紀の啓蒙思想を代表する人物の一人。特に美学と芸術に関する研究で知られ、ジャン・ル・ロン・ダランベールと共に『百科全書』の編纂を行い、啓蒙思想を普及させた。合理主義と科学的思考を重視し、既存の権威や偏見を批判することで社会改革を促そうとしました。代表作である『百科全書』は、彼とジャン・ル・ロン・ダランベールが共同編集を務めたもので、18世紀の科学、哲学、芸術、技術の知識を集大成した一大事業。このプロジェクトは、既存の知識を体系化し、人々に広く共有することで啓蒙思想を普及させることを目的としていた。しかし、教会や政府からの強い反発を受け、一時出版が禁じられるなど、数々の困難にも直面。それでもディドロは屈せず、多くの協力者と共に刊行を続け、最終的に17巻に及ぶこの偉業を完成させた。また、彼は哲学書や文学作品も多く手がけ、『ラモーの甥』や『運命論者ジャックとその主人』などの小説を執筆し、人間の自由意志や倫理観について独自の視点を示した。

百科全書 / Encyclopédie
『百科全書、または学問・芸術・工芸の合理的辞典』は、18世紀フランスでディドロとダランベールが手掛けた壮大な知識の集大成であり、巨大な書物。その肝は知識をバラバラにせず、分野ごとのつながりを大切にしながら、ひとつの本としてまとめ上げることを目的とした。「科学」も「アート」も「哲学」もバラバラにせず、ピースを合わせながら編集しています。ディドロが編集長として全体をまとめ、ダランベールが理論的な基盤を作り上げた。ここで一番重要だったのは「編集の力」。情報同士をどうつなげるかがポイントで、ディドロは「哲学」や「科学」の言葉が出てきたときに、それらが他の分野とどう結びついているのかをすぐにわかるようにした。当時の支配的な権力、特に教会や王政から反発を受けたが、それが逆に『百科全書』への注目を集め、啓蒙思想や自由な思考が広がるきっかけとなった。ディドロとダランベールは、知識をみんなで共有し、編集し合うという新しい知識の装置を作り上げたのだ。さらに驚くべきことに、ディドロは最初、ほとんど無名の貧しい書生だった。パリ大学で神学と哲学を学んだものの、彼の編集実績といえば、プラトンの『ソクラテスの弁明』をギリシャ語からフランス語に訳したり、ちょっとした歴史書や医学辞典を訳した程度。それにも関わらず、あの有名なル・ブルトンが、なんとディドロにこの超大作を任せた。『百科全書』は、単なる辞書ではなく、知識を自由に探求できるツールとして、まさに知識革命の象徴。今もその影響は色濃く残っており、まさに知識の大冒険が始まった瞬間だった。

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