愉快な連中 / RIGHT AROUND HOME
Bibliographic Details
- Title
- RIGHT AROUND HOME / 愉快な連中
- Author
- DUDLEY FISHER / ダドリー・フィシャー
- Designer
- Tsunehei Shimura , Sanroku Oyamada / 志村つね平・小山田三六
- Publisher
- Tokyo pacific sha / 東京パシフィック社
- Year
- 1947
- Size
- h297 x w210mm
- Weight
- 90g
- Pages
- 18 pages
- Language
- English & Japanese / 日英
- Binding
- Center-stitch binding, two-fold (horizontal folding) / 中綴じ、二つ折り(横長折りたたみ)
- Condition
- good
戦後GHQ時代の邦訳アメコミ。
パンクな造本の端っこに
小さな福耳あり。
福耳の前に、このアメコミの魅力は、パンクな造本にある。いや造本というと大げさかもしれない。だって、中身が飛び出しているのだから。
まずですね、独立したパノラマ漫画(サザエさんで言えば一話ごと)が各ページに印刷されていて、それが二つ折りで綴じられている。表と裏のどちらから開いても、パノラマの景色がひろがるという仕掛けになっていて、ここまではいい。それで、ヨコに長い本文全体(18ページ分)をえいっと二つ折りにした束の短辺をホチキスで留めて、ほぼB5サイズの表紙を糊付けしてある。ここで折り返しがホチキス留めにあたってしまったんでしょうね、折り位置をセンターから右に2センチほどずらして、なんとか収めようとしたら、本文が2センチ分表紙の外に飛び出しちゃった。いまなら、イギリスのOK-RMなんかがやりそうな造本を80年前にやっているわけだけど、これもきっと意図していない造本設計エラーなので、この本は福耳とあわせてダブルのエラーが重なった珍品というわけです。
肝心の福耳は、横長におおきく開いた2枚目、右下の小口に矢印のようなかたちであらわれる。二つ折りのページを開いて、さらに折り畳まれた小さな福耳の存在は、まるでマトリョーシカのようです。
本書『愉快な連中』は、日本で「気まぐれブロディ」の新聞掲載が開始された翌年に刊行されている。ダドリー・フィシャーによる独自の鳥瞰図スタイルや、連想的なストーリー展開は、その後の日本の漫画文化が進化していくきっかけのひとつにもなったという。本の内容は、おてんば娘のマートルとその家族を中心に、郊外のにぎやかな暮らしが季節ごとに漫画化するというもの。何ということのないふつうの日常がストーリーになっている。学校の様子や、仲間とのキャンプ、家でポーカーゲームをしたり、アメリカ中西部の地域全体がひとつの大家族のように描かれていて、どのページも滑稽な活気にあふれている。
戦中戦後のアメリカで連載されていた日曜日の新聞漫画(コミック・ストリップ)『RIGHT AROUND HOME』の18タイトルが底本になっている。1947年に刊行された日本語版では、吹き出しの中の英文はそのまま変えずに、絵の枠外に翻訳した日本語をレイアウトしている。駐留していたGHQ関係者から、英語を学びたい日本人まで、じつにさまざまな読者に重宝されたという。
当時の日本は、アメリカの占領下。生活のあらゆる場面でアメリカ文化の影響を受けはじめていた。アメリカンコミックの浸透は、1933年の「気まぐれブロディ」が『国民新聞』に掲載されたのが嚆矢とされている。アメリカ文化の日本への受容を目的としたGHQの戦略によって、「気まぐれブロディ」は、その後1946年から1956年の10年間にわたり『週刊朝日』に掲載され、1949年から1951年にかけては『朝日新聞』にも掲載されていた。ちなみに「気まぐれブロディ」の内容は、電化製品に囲まれたアメリカの中流家庭の生活がテーマで、登場人物はそれほど多くはなかった。
アメリカンコミック研究家のあいだでは知られた話だが、ダドリー・フィシャーは、第一次世界大戦に航空写真家として従事していた。急速に時代が変化していく中で、空の上から地上を見下ろしていた彼が、晩年コミックという名の新しい乗り物を得て、鳥瞰図という方法によって身近な世界を俯瞰したことは、偶然ではなかっただろう。彼にとって美しい世界とは、すぐ側にある日常のことだったに違いない。
«目次»
學校もお休み(School’s out!)
おとこ手のゼリー作り(The boys help make the jelly.)
ブリッヂクラブの遠足(Our Bridge Club holds its Outing.)
商賣にならない(No trade - no sale)
誰か夢なき(A guy can always dream.)
スージーとポーカー(We teach Susie to play Poker)
ナツシー 新居え移轉(Nuttsie moves into his new home.)
自然に歸る(Back to nature.)
いかさま商賣(Tricky business)
髪ありと思う心の仇櫻(Hair today and gone tomorrow.)
ビフテキを燒く(Steak roast)
おばあさんの農園にて(We visit grandma’s farm)
千客萬萊(Sunday night at Bessie’s)
ナツシー坊やの初歩き(We teach Nuttsie, Junior, to walk)
フツトボールシーズン(We open the football season.)
マートルの結婚式(Wedding Bells For Myrtle.)
新學期(Back to school)
フレツドの健康診斷(Freddie gets the one-over)