rules for photographing a scoliotic patient / Woong Soak Teng

Bibliographic Details

Title
rules for photographing a scoliotic patient
Artist
Woong Soak Teng
Designer
Macarius Eng
Publisher
THEBOOKSHOW
Year
2022
Size
h297 x w180 ×d14 mm
Pages
160 pages
Language
English / 英語
Binding
Codex binding / コデックス装(糸綴並製本)
Edition
First Edition of 200 copies / 初版限定200部
ISBN
978-981-18-4109-5

ゆがみや非対称は
芸術では美しく、
現実には異常なのか?

シンガポールのアーティスト、ソーク・テンが手がけた一冊。この本は、「側湾症(そくわんしょう)/ scoliosis」という脊椎が左右に曲がってしまう原因不明の病気をテーマにしている。この奇病は現在も自然治癒では治せないため、特殊な装具をつけて生活するか、手術をするしか手がない。1994年生まれのソーク・テンも、幼少時に「側湾症」を発症し、13歳のときに手術を経験している。

彼女がふたたび側湾症と向き合うことになったきっかけは、大学在学中に「シュタイデル・ブック・アワード・アジア / Steidl Book Award Asia」を受賞した「Ways to Tie Trees」という本づくりの最中のこと。それはシンガポールの街中でよく見かける「添え木で支えられた街路樹」を採集した写真集で、支柱に縛られた街路樹の姿が一点ずつ印画されている。

ソークがシンガポールで見つけたのは、「八ツ掛支柱(やつがけしちゅう)」やそのもっと原始的な「一本支柱(いっぽんしちゅう)」と呼ばれる植樹技術の基本形で、根をはる前の苗木が強風で倒れてしまわないように支えたり、まっすぐ上に伸びていくように寄り添う、さまざまな支え方のドキュメントになっている。なかにはちょっと頼りない支え方もあるけれど、支え方というのが一様でないことが肝要だった。よく手入れされた庭園などは別にして、日本でこれほど多様な添え木を見れる場所はあるだろうか。公園などでよく見かける「四脚鳥居支柱」などは、ソークに言わせれば、教育から芸術まで、あらゆる場面で日本人を縛っている同類の支えの象徴なのかと考えさせられる。

本書に話を戻すと、「Ways to Tie Trees」の撮影を終えて、並べた写真を眺めているときに、ふと、忘れていたからだの記憶がよみがってきた。「あれ、これって、むかし手術した背骨の病気に似ている」と。彼女にとって、それは思いがけないことだった。


本書は、現在も側湾症を患っている患者さんたちとの対話をもとにしている。 重症患者さんたちがいる病室に足を運び、ひとり一人に丁寧に取材をしていった。すると、それぞれに治療法が違うこと、ふだんの生活スタイルが千差万別なこと、側湾症と診断された日からそれぞれの旅路があることが分かってきた。デリケートな取材になることを覚悟していたが、意外なことにインタビューされる患者さんたちは、協力的だった。共感してくれる他者とはじめて出会えた気分になれたという。「生まれてはじめて自分の背中の全貌を見ることができた」という人や「背中の傷跡をずっとだれかに撮ってほしかった」という人まで出てきた。十分に信頼を得たタイミングで、ソークはねじれた背中をやさしく撫でるようにそっと撮り下ろした。

本書のタイトルは、直訳すれば「側弯症患者を撮影するためのルール」という意味になる。医療の歴史では側弯症患者を撮影するときに、それがたとえどんな人であっても、暗い背景で横から光を当てるという撮影法が採用されてきたのだという。彼女が重点をおいたのは、一人ひとりの個性やユニークな身体の輪郭に沿って撮影することであり、撮影前には「いつ側湾症だとわかったんですか?」と聞くようにしたのだという。いわば、一定のルールを持たないことが彼女のルールだった。暴力的な医療写真に対する、彼女らしいアイロニーが書名に込められている。

それにしても、手にとってよくご覧いただきたい本なのである。書物が書物の姿をとるときのボディに沿って、つまり、背やノドや小口がある本のカラダと側湾症のカラダを重ねて、さまざまなディテールを工夫している。例えば、コデックス装による糸かがりが背中の抜糸痕のように見えたり、巻末のインタビューページの文字組みは、ゆがんだ背中のように左右にズレている。本を包むスリーブケースの口留めテープは、側湾症患者が装着する特殊なコルセットを連想させる。そのテープの縫製は、一冊ずつソーク・テン自身が縫製しているのだという。

もしも、FRAGILE BOOKSアワードがあれば2022年の最終ノミネートに間違いなく入っている、そんな一冊です。初版限定200部のうちの数冊だけ、シンガポールから届けてもらいました。



Text by 櫛田 理





本書の内容についてアーティストが語っている映像はこちらから。 この作品は、Objectifs Documentary Award 2021 を受賞し、2022年4月26日から5月29日のあいだ「Objectifs Lower Gallery(シンガポール)」でソーク・テンの初めての個展として開催されました。




Profile

Woong Soak Teng
ウン・ソーク・テン
1994年、シンガポール 生まれ。アーティスト。アート制作、プロデュース、プロジェクト・マネジメントを交差させながら活動している。彼女の個人的なプロジェクトは、自然現象や自然全般をコントロールしようとする人間の傾向が題材になることが多い。Nanyang Technological Universityで写真とデジタルイメージングの美術学修士を取得し、オークランド、コペンハーゲン、ダリ、ギリシャ、東京、上海、シンガポールなど、世界各地の国際的なフェスティバルや展覧会に参加している。


Award

2021 Objectifs Documentary Award
2018 Kwek Leng Joo Prize of Excellence in Photography
2018 CDL Singapore Young Photographer Award
2017 NTU International Photography Awards
2016 Steidl Book Award Asia 8
2015 The Workbook Prize



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