書斎の岳人

Bibliographic Details

Title
Shosai no Gakujin / 書斎の岳人
Author
Usui Kojima / 小島烏水
Designer
Shozo Saito / 斎藤昌三
Publisher
書物展望社
Year
1934
Size
h200 × w140 × d30
Weight
590g
Pages
348 pages
Language
Japanese / 日本語
Binding
Spine Bound by a nest of bagworms / 背をミノムシの巣で装幀した上製本
Edition
Limited edition of 980 copies / 限定980部

斎藤昌三が
ミノムシの蓑で包んだ
ゲゲゲのゲテ装本。

この本は、内容こそ山岳のかたわら本に溺れてきたアルピニストの小島烏水が綴る愛書談義になっているが、古書マニアのあいだでは、ゲテ装本を代表する一冊として知られている。

本書が初版刊行から90年近く経っているのに、いまだ燦然とあやしい光を放っているのは、発行人で装幀家の斎藤昌三がみずから山に入って採集した「ミノムシの蓑」で本の背が装幀されていることにある。驚くべきは、それを980部もこしらえたことだろう。狂気の沙汰である。

手触りはふかふかで、いきものの剥製のような一冊になっている。

ゲテ装本(又は単にゲテ本、下手本)とは、「本造りでは使わない酒ぶくろ、蚊帳、竹皮、風呂敷といった実物をそのまま装幀に使用した、風変わりな本」のことで、斎藤昌三の仕事の代名詞といえる。言葉の由来は、番傘の油紙で装幀した斎藤の著書『書痴の散歩』を前に、民俗学者の柳田国男が「下手もの趣味も爰まで来ては頂上だ」と評したことに由来する。

現代のアートブックやブックアートの世界では、ふつうは本に使わない素材をあえて取り込むことに、上手がある。ヴェロニカ・シェパスがSolitude」の本文用紙に医療用の濾紙をつかったり、秋山伸が『耕す家』をプラスチックのトタン屋根(波板)で包んだりすることは、いまでは喝采されるべき造本の工夫だけれど、1887年生まれの斎藤昌三は、すこし登場するのが早すぎたのかもしれない。しかし、たいていのことは杉浦康平がやっているとか、ブルーノ・ムナーリがやっていると言うのと同じように、斎藤昌三の仕事だってもっと評価されていい。



Text by 櫛田理
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