合戦絵巻粉本 / Sketches of battle picture scroll

Bibliographic Details

Title
Sketches of battle picture scroll / 合戦絵巻粉本
Artist
Anonymous / アノニマス
Year
Unknown / 不明 (〜Edo)
Size
h455 × w585mm
Pages
8 separate sheets of paper / 8枚の独立した紙
Binding
unbound / 未綴じ
Printing
Ink painting without color / 無彩色肉筆画
Materials
Ganpi paper (ultra-thin Japanese paper) / 雁皮紙
Edition
Unique / 一点物
Condition
Small scratches on top, bottom, left and right edges / 天地左右の端に少傷

薄い雁皮紙に
描かれた
無彩色合戦絵巻。

粉本(ふんぽん)とは、絵の下書きや研究制作の参考として模写した絵画のこと。この8枚は、この言葉が示す通りの粉本です。雁皮紙に墨一色の筆書き武者の一団高々と首(しるし)を掲げながら、立派な寝殿に集ま場面が描かれており、合戦絵巻の一部とみられます。制作年代は不詳。もとめに応じて描かれたものであれば江戸時代まで、研究のための模写だとすれば明治以降の可能性もあると思いますが、とくに足の先や手の表情、鬢の描き方など、細部を描く筆遣いの確かさから、どんなに新しくとも、江戸時代の絵師の伝統を直接受け継いだ人たちが生きていた時代までのものだろうと推測します

話しは少しそれますが、私は近現代のエフェメラを扱っていという以外、これといった専門ももたず、その時々で面白いと思ったもの、珍しいとえるものを扱ってきました。体系だった専門的な知識がない分、何の既成概念にも邪魔されず、自由に仕入れができる反面、売るための努力は人一倍求められます。言を尽くして商品について説明する。日々の仕事はその一点に集約され、言葉を尽くした果ての針の一点のようにして「価格」を付けるのが私の仕事です。

こうした仕事のやり方にほとほと疲れ果てた時、理屈などの一切から離れて、純粋に美しいもの、かっこいいもの、無性に欲しいと思うもの買いたくなります。この粉本も、そんな気分の時に市場で出会ったものです。入手以来、年に何度か眺めはするものの、説明するための言葉は何年経とうが一向にみつかる気配がなく、長年手元に留め置いてきました絵巻物の残欠であると同時に、日月堂という古本屋の仕事の残欠のようなものです。

いまも具体的に説明できることはひとつもありません。ただ、なぜだか「惹かれる」そんな8枚のアノニマスな逸品です。

Text by 佐藤真砂