Table
Bibliographic Details
- Title
- Table(Book Para-Site 7)
- Artist
- Yasutomo Ota / 太田泰友
- Year
- 2020
- Size
- h500 × w360 × d350mm
- Weight
- 5kg
- Edition
- unique
- Condition
- new
十二単衣を装釘しました。
« Table »
2020
IKEAがアートになるとき。
色とりどりの紙が見事に重なり、まるで宮中の十二単衣を見ているような錯覚に囚われます。テーブルとしての機能は維持しているものの、せっかくの絶景が見下ろせるガラス製の天面には何も置きたくありません。
« Table »は、竹製の35cm角のベッドサイドテーブルを、紙と糸を巧みに操り、アート作品へと変貌させました。テーブルの脚を横に渡る板の上には、板幅ぴったりに収まる大きさに紙の芯材を裁断し、十二単衣のごとく、色とりどりテクスチャもさまざまな紙を貼り合わせて、幾重にも積み重ねています。色鮮やかな紙層は一冊の本でもあり、その厚み故に複数の本の表層の集合体にも見えます。テーブルの貫(ぬき)と幕板には小さな穴を開けて糸を通し、直線と平面の世界にわずかなほころびを添えることで、本の有機的な要素が家具に寄生している状態を表しています。
太田泰友が「Book Para-Site」シリーズをつくることになった最大の動機は、日常の中で身近なものに本を綴じ付ける、本を寄生させる行為そのものへの関心からでした。家具の価値に囚われない作者が素材を探しに向かった先は、まさかのIKEA。既に展示の開催が決定しており、一括で素材を購入できて、同時にあらゆる種類のものを比較できる場として選んだのがIKEAだったとか。日常がアートになる。そんな可能性を感じさせてくれるシリーズです。
この作品を発表した「ポーラ ミュージアム アネックス展 2020」の展示では、作品をただ整然と展示するのではなく、鑑賞する人に身近に感じてもらいたいという考えから、会場全体を「本好きの大人がくらす部屋」として細部まで手を施し、まるでついさっきまでその人物がそこにいたかのような気配を演出しました。小売の現場では重要視されるペルソナですが、架空のペルソナを設定したブックアートの展示というのは、類例のないものでした。
Book Para-Siteシリーズのコンセプトについて、作者のメッセージ:
本と建築は似ている。本にも「扉」や「柱」と呼ばれるものがあるし、動線を考えながらレイアウトを作り込んでいく点もよく似ている。人間よりも小さく、手で持つことができるのが本で、人間よりも大きく、身体として入ることができるのが建築だ。大きさは異なるが、共に宇宙だ。
「最も重要な『芸術』を問われたなら『美しい家』と答えよう、その次に重要なのは『美しい書物』と答えよう――。」私がブックアートの制作を始めた当時、大きな影響を受けたウィリアム・モリスの言葉にも、本と建築の関係性を読み取れる。建物の形に合わせて寄生するように存在する「本」が、新たな「本と建築の関係」を生み出す。 2019年以降、私が制作するブックアートに、手に収まらないものが出てきている。
2019年11月から、Brillia ART AWARD 2019 の入選作品として、東京・八重洲の東京建物八重洲ビルで展示をした作品「Book Para-Site」は、先のモリスの言葉をずっと意識してきた僕が、初めて〈本〉と〈建築〉の境界をスケール感で見つめてみたものだ。
続く 2020年1月に開催された、上野の森美術館ギャラリーでの展覧会「Brillia Culture Spice」では、八重洲での「Book Para-Site」を経ての作品として、「Book Para-Site 2―betwixt boards」を展示した。このサイズの作品を制作する過程で、想像していなかった新しい発見があった。人間よりも明らかに大きな「Book Para-Site」を制作するときの気持ちは、多くの人が想像するであろう、そして僕も想像していた〈建てる〉感覚だ。(※ 感覚は想像通りでも、大変さは想像以上だった)
それが、「Book Para-Site 2―betwixt boards」を制作する中の、表紙の革を貼り込んでいく作業で、人に上着を着せる感覚を覚えたのだ。両手を目一杯広げて、右手と左手にそれぞれ革を掴み、本の周りに腕をまわすようにした動きが、まさにそれだった。
その感覚が僕には新鮮で、スケール感を変えていった時の境界を追究していた〈本〉と〈建築〉という分け方は、もう少し細かく分けていくと、間に〈人間〉が入るように感じられた。これが「ポーラ ミュージアム アネックス展 2020」で発表した新作の Book Para-Site シリーズにつながっていった。そして、このような機会なので付け加えると、僕のスケッチブックには、家具に本が寄生した「ブック・パラサイト」という作品の構想が、2016年に描かれている。家具のスケール感から始まった「ブック・パラサイト」が、3年後に建築、4年後に展示台と経て、今回の展覧会でまた家具へと実現されていったことを、自分のことでありながら興味深く思う。
出典:2020年03月12日 「ポーラ ミュージアム アネックス展 2020」に寄せて—— 太田泰友の Book Arts Journey(2)【OTABOOKARTS BLOG】より