内宇宙と外宇宙 / The inner and the outer space

Bibliographic Details

Title
Den inre och den yttre rymden. En utställning rörande en universell konst / 内宇宙と外宇宙
Editor
Karl Gunnar Pontus Hultén, Karin Bergqvist Lindegren
Director
Pontus Hulten / ポントゥス・フルテン
Publisher
Moderna museets / ストックホルム近代美術館
Year
1965
Size
h290 × w290 × d20
Weight
1070g
Language
Swedish / スウェーデン語
Binding
Bound with 3 screws / ネジ3本で製本

名物キュレーター、
フルテンさんの展覧会図録は
三点ネジ留め製本。

本書は、1965年12月26日から1966年2月13日までストックホルム近代美術館で開催された「内宇宙と外宇宙/Den inre och den yttre rymden. En utställning rörande en universell konst (The inner and the outer space. An exhibition on universal art)」の展覧会図録。

展覧会を仕掛けたのは、ストックホルム生まれのスウェーデン人、ポントゥス・フルテン / Pontus Hulten(1924年6月21日 - 2006年10月26日)。フルテンは、ストックホルム近代美術館の館長時代(1957-72年)を経て、創設メンバーとしてポンピドゥー・センター(パリ国立近代美術館)の初代館長をつとめあげた、20世紀を代表する美術館キュレーターのひとり。その後も世界各地でいまに語り継がれる先駆的な展覧会を手がけている。

フルテンの企画展として有名なのは、1961年の「運動と芸術 / Rörelse i konsten (Movement in Art)(ストックホルム近代美術館 / アムステルダム市立美術館)」、1968年の「マシーン:機械時代の終わりに / The Machine as seen at the end of the mechanical age(MOMA)」や同年にストックホルムで開催したヨーロッパで最初のウォーホル展「ANDY WARHOL Moderna Museet Stockholm(ストックホルム近代美術館)」、1986年の「未来派 / Futurism & futurisms(ヴェネツィア・パラッツォ・グラッシ)」など、企画力がものを言う展覧会が多い。場所がストックホルムからニューヨークやェネツィアに変わっても、人間とアートの関係に来たるべき未来を指し示そうとしたその手腕は一貫している。

フルテンを語る上で「開かれた美術館」というキーワードは欠かすことができない。パリの五月革命やプラハの春など、若いエネルギーが世界各地で同時に沸き起こった1968年を分水嶺に、古い美術館の体制を解体していく運動の急先鋒として、フルテンのもとに世界中から同志があつまった。フルテンが革新したかったことは、1973年にストックホルムを離れた後、パリで実現していくことになる。

1977年、パリ4区に開館したポンピドゥー・センター国立近代美術館(Musée National d'Art Moderne)は、彼のキャリアにとってもっとも重要なものになる。創設ディレクターとして初代館長をつとめた彼は、「開かれた美術館」という考えを「美術」以外に拡張し、文学、映画、科学、演劇、ダンス、音楽などジャンルをまたぐ多面的で学際的な展覧会を次々と仕掛けていく。そういう目で見れば、レンゾ・ピアノとリチャード・ロジャースによる配管がむき出しの建築設計もフルテンの思考を象徴するものになっている。ポンピドゥー草創期=フルテン館長時代を代表する展覧会としては、「パリ-ニューヨーク」展(1977)、「パリ-ベルリン」展(1978)、「パリ-モスクワ」展(1979)、「パリ-パリ」展(1981)と続いた大規模な都市展がある。

知る人ぞ知る凄腕のフルテンさんは、図録づくりも凄かった。本書は、ストックホルム近代美術館の館長時代につくられた図録で、「内宇宙と外宇宙」を探求するための展覧会図録である。展覧会のテーマもすごい。開催した時期は、1965年12月の暮れ。1960年代前半というと、1961年5月にケネディ大統領が「1960年代のうちに人類を月に送る」と宣言したアポロ計画にはじまる宇宙開発の時代で、その翌年の62年にはDNAの二重らせん構造を発見したジェームズ・ワトソンがノーベル生理学・医学賞を受賞し、分子生物学も飛躍的に進化していた時期にあたる。まさに、内なる宇宙と外なる宇宙を探求するにふさわしいタイミングに開催されたのがこの展覧会だった。

本書には、35人のアーティストによる作品が収録されている。参加アーティストは、カジミール・マレーヴィチ(Kazimir Malevich)、トロエルス・アンデルセン(Troels Andersen)、ナウム・ガボ(Naum Gabo)、イヴ・クライン(Yves Klein)、ウルフ・リンデ(Ulf Linde)、マックス・ビル(Max Bill)、エンリコ・カステラーニ(Enrico Castellani)、ピエロ・ドラツィオ(Piero Dorazio)、ルチオ・フォンタナ(Lucio Fontana)、ドナルド・ジャッド(Donald Judd)、ピエロ・マンゾーニ(Piero Manzoni)、オットー・ピーネ(Otto Piene)、ロバート・ラウシェンバーグ(Robert Rauschenberg)、フランク・ステラ(Frank Stella)、マーク・トビー(Mark Tobey)、ギュンター・ユッカー(Günther Uecker)、ヘルマン・デ・フリース(Herman de Vries)など、錚々たる顔ぶれ。

図録の4部構成で、イヴ・クライン(Yves Klein, 1928-1962)のモノクローム・ブルー・セリグラフと金色のオリジナル版画を含む多数の図版を展開する。金色の裏面には「Guld är Solljuset fotograferat och fixeradt」とスタンプあり。表紙は白いビニール素材のシートで、裏表紙は段ボール紙。この段ボールに輸送箱と同じタイポグラフィをあしらっているところが洒落ている。しかし、驚くべきは製本のやり方で、サイズが異なる数種類の本文用紙をオリジナルの金属製ネジ3本で留める、という当時としては斬新な発想で製本されている。この製本のアイデアは、フルテンも気に入ったのか、この後の1968年にニューヨークのMOMAで開催した「マシーン:機械時代の終わりに / The Machine as seen at the end of the mechanical age」の図録でも試している。




Text by 櫛田 理

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