クロード・フレールの生地見本帳 / The pattern book of J. CLAUDE FRERES

Bibliographic Details

Title
The pattern book of J. CLAUDE FRERES / クロード・フレールの生地見本帳
Author
Unknown / 不明
Images
889 fabric samples are pasted in / シャツ用の生地貼り込み889点
Publisher
J. CLAUDE FRERES & CO., Paris / クロード・フレール社
Year
From the mid 19th to early 20th century
Size
h410 × w290 × d80 mm
Weight
3900g
Language
French(but, few words contain) / フランス語(言葉はほぼない)
Binding
Handcover / ハードカバー
Edition
Unique / 一点物
Condition
Good

表皮が削れた
海辺の漂着物のような

無言の書物

1980年代のDCブランド最盛期に日本の服飾メーカーがさかんに輸入していたフランスの生地見本帳が流れ着いた一冊です。海外の生地見本帳は、最近はとんと見かけなくなりましたが、2010年代には度々市場に出品されていました。ものとしては、1900年代から1930年代のフランス製が多く、なかには所有していた旧蔵企業名が残るものも少なくありません。貼り込まれた布が剥がされていることが多いのも、「織り」や「染め」などの発注の際に、スタイル画などに添えて、実際に使われたものと考えられます。

見本帖を蒐集しているイタリアの毛織物メーカーの方に話を聞く機会があり、その時に聞いた話しによると、元来メーカーごとにセールスしていた生地サンプルを集めて仲介者がサンプル帖をつくり、そのサンプル帖をもとに洋装店や百貨店など洋服を仕立てる業者を相手に生地を小売りするという仕組みができていたのだそうです。生地メーカーは仲介者に生地サンプルを預け、仲介者はサンプル帖を制作し、洋装メーカーは仲介業者のサンプル帖をみて生地を発注する、というしくみです。

見本帖に貼られている生地をパッチワーク用に剥がした人が居ましたが、1冊に収められた点数が膨大な数になるため、たいへんな作業になると聞きました。

海外の生地見本帖は、大判・厚冊で上製製本されているのが基本の形です。本文用紙にびっしりと生地を貼り込むため、本文ページは重たくなります。そのため、年月とともに重みに耐えきれず、表紙と裏表紙が本文から剥がれてしまうケースが多くみられます。今回の博覧会に出品するものは、表紙装丁に使われていた黒クロスが剥がれた状態ですが、一度きちんと製本された大判・厚冊の書籍の存在感は、例え表紙がとれてしまってもなお減じられることなく、むしろ迫力が増すことを教えてくれます。

ちなみに、この一冊は、Yシャツの生地をあつめた見本帳で、巻頭に社名を印刷した貼り込みがあることから、クロード・フレール社(J. CLAUDE FRERES & CO., Paris)が発行したものと思われます。クロード・フレール社は、1825年にパリに移住した製図家のジャン・クロードが1834年に設立した会社で、ヨーロッパ全域の衣服や家具の繊維デザイナーに向けて、生地見本帳というメディアを発明し、流通させた革新的なビジネスマンでした。クロード・フレール社の生地見本帳は、時代を超えたクリエイティビティの貴重なアーカイブとして、ヨーロッパ各地の美術館などで所蔵されています。


Text by 佐藤真砂

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