Trees
Bibliographic Details
- Title
- Trees
- Author
- Gunnar A. Kaldewey
- Publisher
- Kaldewey Press
- Year
- 1988
- Size
- book: h490 x w635mm (unfolded) / case: h527 x w267 x d50 mm
- Weight
- book 290g / with case 1,270g
- Language
- 英語
- Binding
- 三つ折り、ブラジリアンローズウッドの背
- Materials
- 遠見周作が手漉きした杉皮紙
- Edition
- Limited 40 edition
- Condition
- Very Good
カルドウェイ本人のサインつき。きめの粗い茶色の杉皮紙7枚に、さまざまな緑の色合いの手彩色と、17のリノカットがモノプリントされています。本体は観音開きで3分の1の寸法に折りたたまれ、プライウッドの木箱に収められます。箱のふたには、大きなラベルが貼られ、木箱全体は、リネンの平紐で固定されます。
輪島の杉皮紙と
ニューヨークのカエデの
オートクチュール。
世界でもっとも優れたアートブックを作る出版社の一つ、ニューヨークのカルドウェイ・プレスが1988年に発表した力作。著者は、ガンナー・カルドウェイ本人。
書名が「Trees」と複数形で表記されているように、この本は、なにか特定の樹木を取り上げているのではない。「樹木たち」が置かれている状況、「樹木たち」の姿かたちについての普遍的なまなざしが大胆な版画とともに詩作されている。
図版の素材となっているのは、カエデの木。マンハッタンから車で3時間ほど離れたニューヨーク州ポエステンキルに自生していた樹齢200年以上の巨木だ。印刷は、カルドウェイ本人の手による活版印刷(レタープレス)。活字は、30ポイントのFutura(と奥書にある)。そして用紙は、遠見周作の杉皮紙。これを世界で40部だけ作った。
この一冊に価値は、遠見周作の杉皮紙をまとっていることにあります。
遠見周作は、能登半島の輪島に漉き場をかまえたペーパーメイカー。もともと和紙の産地ではなかった能登半島のはじっこの仁行に単身移り住み、輪島合鹿椀のつつみ紙などを漉いて糊口をしのぎながら、1949年頃から本格的に和紙づくりを始めます。楮にたよらず、土や草など身の回りの自然を漉きこんだ独特の和紙は、能登仁行和紙(のとにぎょうわし)と称され、世界各地から注文が入るようになります。
杉皮紙は、名前のとおり、杉の皮からつくった和紙で、遠見周作が創案しました。きっかけは、終戦後、楮が手に入らなくて困っていたとき、製材所のすみっこで踏まれるがままに捨てられていた杉の皮をみかけたこと。雨に打たれてしっとりと黄金色に映った杉の皮が目に焼きついていた。それで勢い、楮から和紙をつくるのをやめたものの、はじめのうちはうまくいかない。粗くて太い杉の繊維はとてもじゃないけどあつかいにくく、能登ヒバの繊維をまぜるなどして試行錯誤しながら、ついに完成させます。
本書が刊行された1988年は、遠見周作の没年にあたる。本書の奥書に「Paper by Shusaku Tomi, Wajima, Japan」と遠見周作の紙(杉皮紙)だと書かれているので、そうであれば、ひょっとしたら最後の仕事だったのかもしれません。
こうして、ガンナー・カルドウェイは「樹木たち」というコンセプトを完遂するために、自然を漉きこむ輪島の遠見周作に白羽の矢を立て、杉皮紙をオーダーし、ポエステンキルまで出向いて樹齢200年のカエデ(メープル)から図版を起こし、じぶんのプライベートプレスであるカルドウェイ・プレスから限定数のみ発表した。いやはや、これはやはり、かなりの力作です。
Text by 櫛田理